「つくりかけ室」を立ち上げたきっかけ

2021年10月29日

「つくりかけ室」という場を作ってみよう!と思った経緯を記録してみます。

「つくりかけ室」って何?という方はこちら

「つくりかけ室」立ち上げのきっかけは、
2017〜2020年までゼロコの活動拠点であった、珈琲家庭料理aunt(通称:あんと)という場所がきっかけです。
その辺りから、まとめてみます。

成功も失敗もできる場所「あんと」

2017年、僕が所属する濱口と角谷のユニット「ゼロコ」の活動が本格的に始まりました。
活動を本格始動するにあたり、2人で目標を立てました。

相方と出会ってからは、数年経っていたものの、作品を共同制作するのは初めての事でした。
そこで、相方と僕でどんな作品が創作できるのか、自分たちの可能性を知りたいと思い、
最初の3年間は「2か月に1回、新作公演を行う」という目標を掲げました。

その活動に、頻繁に利用していたのが、珈琲家庭料理aunt(通称:あんと)という場所でした。
あんとは、東京にあるこぢんまりとした喫茶店で、アットホームな空気感のある場でした。
そんなあんとに居心地の良さを感じ、家のように、安心して表現できる場にしていきたいと、活動拠点に決めました。
2017年からの3年間で、一番公演を行った場所でもあります。

あんとの店主はゼロコが利用し始めた当初から、
「ここは、成功も失敗もできる場所だから。とにかく、何をやってもいいよ。」
と、何度も言ってくださっていました。

そんな言葉があってか、
アイデアや構想を立体化し、ライブで発表するという流れを、スピード感を持って躊躇せずにできる場所になっていきました。
やったことがない演出やはじめての表現も、とにかくなんでもやれる、攻めの姿勢が取れる場所でした。
店主の言葉通り、たくさん挑戦した分、たくさん失敗や反省もした場でもあります。
2017〜2019年はあんとライブに鍛えられ、演出力、創作力、即興力、忍耐強さ、チャレンジ精神など、様々な力を鍛えてもらえたと感じています。

そんなあんとでの活動は、舞台公演にも続いていきました。

ゼロコで初めての舞台公演を行うことになった際、
「あんとライブで培った事を舞台公演に反映させる創作」という方向性を打ち出しました。
具体的には、あんとライブで発表した演目を改編して上演したり、あんとライブで生み出した作品構造を用いて、新たなストーリーを作り上げていくといった方向性です。
この方向性で何度か舞台公演を行ってみて、手応えを感じ、これ以降、定着化していきました。

それにより、あんとライブ自体も徐々に「舞台公演がその先にある」という意識を持って、挑むようになり、より一層、柔軟に、あんとライブに臨めるようになっていきました。

また、その頃のあんとライブのアンケートには、作品が育っていく可能性を感じながら楽しんでもらえているような感想も見られるようになっていきました。
一方、舞台のアンケートには、あんとライブで発表した作品が様変わりした姿に感動したといった感想も見られるようになりました。

このように、当時のゼロコの活動は「あんと」と「舞台公演」の相関関係ができあがっていきました。
そう活動している時に、コロナ禍になりました。

あんとが閉店。

2020年、残念ながら、あんとは閉店しました。
ゼロコのホームグラウンドがなくなった事はとてもショックではありました。
ですが、これがきっかけにゼロコの創作活動を見直すきっかけとなっていきました。

発表の場を無くし、
2020年、2021年とコロナ禍で、パフォーマンスができる機会も減ったことにより、
活動や創作について、2人でゆっくりと話し合う時間がたくさんできました。

これまでを振り返り、これからを話し合っていくうちに、
自分たちの創作の向き合い方が変化してきていることに気がつきました。

ざっくり書くと、
これまで(2019年頃まで)は、スピード感を重視して、作品をとにかく生み出す時期だったけれど、
これからは、しっかりと創作をし、じっくり丁寧に作品を磨いていくことに注力したいということでした。

そんな時に、あんとでの活動を思い返してみました。
「あんと」での活動が「舞台公演」につながっている流れは、とても肌に合っているものだったことを思い出しました。
そこで、「あんと」の「挑戦できる場」と「活動発表できる場」のうち、「挑戦できる場」という部分だけを残した場が作れないかと考えました。

そこで、「つくりかけ室」という場を思いつきました。

制作過程を知りたい人/制作過程を知るということ

「つくりかけ室」とは、制作途中の作品や作品のタネみたいなものを共有する場です。

作品は本来、完成したものを、前情報なしに触れる(観る)瞬間が一番鮮度があり、楽しいものです。
ですので、制作途中の作品は人前ではあまり見せるべきではないですし、僕自身もそう思っています。

ですが、必ずしもそれは、全ての人に当てはまることではないことを思い出しました。
「思い出した」と書いたのは、僕自身が、他のアーティストや作家の創作過程や制作途中の姿を見ることに価値を見出すタイプであったからです。

クリエイターのドキュメンタリー番組だとか、美術館でたまに流れている制作過程の映像だとか、飴細工職人のつくっている姿とか、そういったものがとても好きでした。
そういったものを見て、自分自身に置き換えて、物事を考え直すきっかけにしたりしていました。

そういった制作過程に興味がある人、必要としてくれる人に届けたいコンテンツです。

「作品」は多くのひとに届けたいものですが、
「つくりかけ室」は多くの人に届いて欲しいと思っているコンテンツではありません。
これから「つくりかけ室」という場をつくって、僕たちにとっての新たな「挑戦できる場」にしていきたいと思っています。

そんなわけで

というわけで、「つくりかけ室」を企画してみようと思ったきっかけを書いてみました。

近年、ワークインプログレスという創作方法が多くの制作現場で行われています。
ワークインプログレスとは、創作の過程を公開し、観客と意見交換をすることで作品の完成度を高める取り組みです。

「つくりかけ室」という言葉を使っていますが、ゼロコの取り組みもワークインプログレス的な部分が強いです。

これから「つくりかけ室」を重ねていくことが、どう意味をなしていくのか楽しみです。